学園内のチャペルに10年生が集合して、今年度最後のグローバルキャリア講座が行われました。
「今、世界的に障がい者に対しての認識が変化しています。キーワードはインクルーシブルな社会です」。
そう語るのは今回の講師、特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR JAPAN)の 穂積武寛さん。現在の仕事に至った経緯や、アフガニスタンでの支援活動での実際に即したエピソードなどをお話しいただきました。
穂積さんは、将来、国際的に人助けに関わることを目指して大学で英語を学び、JICA(国際協力機構)から国際支援活動のキャリアを踏み出しました。そして、JICAで“世界”に関わり10年が経った頃、「もっと世界のことを学びたい」という想いに駆られて大学院で再び学ぶことを選びます。
比較文化に関する修士論文を書き上げた後、「官ではなく民の立場で国際協力の仕事がしたい」と考えた穂積さんは、AAR JAPANで活動を開始。以来、タジキスタン、パキスタンなどの地雷問題、障がい者支援、難民支援に取り組んでこられました。
「今、生活を送る中で、なぜ周りに障がい者があまりいないのでしょうか?みなさん、ぜひ考えてみてください」。
そう問いかける穂積さん自身も、AARで働くようになってはじめて、周りに障がい者がいないことに気づき、「なぜ自分は障がい者に対して無関心だったんだろうか」と戸惑いを感じたとおっしゃいます。
「障がい者も人であり、個性を持った人間として認識すること。そのことがインクルーシブルな社会なんです。障がい者の方と話をするとよく言われるのが、『私たち抜きに私たちのことを決めないでほしい』ということ。人として普通に扱うことが大事だと思います」。
これまでは、障がい者は隔離して特別に対処するのが社会的な風潮でがしたが、現在は、社会全体で受け入れていこうという流れが世界的に広がっていることを、現場の声とともに伝える穂積さん。
生徒たちは、普段あまり会う機会のない障がい者について想いを巡らせながら、真剣に耳を傾け話に引き込まれていきます。
「インクルーシブルな社会をつくっていく世界の流れがある一方で、障がい者が深刻な状況に置かれているのがアフガニスタンです。私が今、いちばん支援活動に注力している国です」。
アフガニスタンでは、家からいっさい外に出さなかったり、学校に行かせなかったりする家庭も多く、障がい者に対する偏見が強く残っているという現実を伝えます。
AARでは、家を一軒一軒訪問して、障がい者を外に出してもらうように家族の理解を促し、学校では先生に働きかけて受け入れを説得。粘り強い活動は、指導をはじめた頃は当惑していた家族や先生方も、少しずつ理解を示し、成果を見せはじめています。
「何かが排除される社会は弱い社会だと思います。どのような人でも幸せを追求することができるのが“強い社会”です。まだまだ途半ばですが、アフガニスタンを含め、世界で誰もが幸せになれるようにがんばりたいです」。
穂積さんの力強い語りを、生徒たちは熱心に聞き入っていました。
「誰もが幸せになるというのは難しいのではないでしょうか?」「どこまでやればそういう世界が築けますか?」
「全員を救うことはまだまだできてないですし、ばらつきはあります。問題も山積みです。でも、まずは当事者が声をあげられる環境をつくること、障がい者の子どもたちが人間として扱われること。それができる“強い社会”にしていくことが大事だと思います」。
講義後の質疑応答で、生徒たちの意欲的な質問に、誠実に答える穂積さん。
「私たちはひとりひとり個性が違うし、障がい者もそのような違いとして扱うのが大事なんですよね」。
答えを受けた生徒が伝えることばに、清々しい笑みを浮かべ、大きくうなずかれていました。
障がい者に対して正しく理解し、共に協力して生きることができるのはどんな社会なのか。より幸せな“強い社会”をつくるためには何が必要なのか。人間としての力を、強く問いかけられる最後の講座となりました。